世界で大ヒットした映画『Crazy Rich Asians』。
大ヒットした理由を、脚本的視点から考察してみました!
※ネタバレ注意です!
- ヒットの理由① 面白いストーリーに欠かせない『対立』
- ヒットの理由② 面白いストーリーに欠かせない『ジレンマ』
- ヒットの理由③ 悩める観客の背中を押してくれる『メッセージ性』
- 【余談】映画『Crazy Rich Asians』から学ぶ、大道具の活用方法
- 【余談】映画『Crazy Rich Asians』から学ぶ、小道具の活用方法
ヒットの理由① 面白いストーリーに欠かせない『対立』
脚本スクールで学んだ面白いドラマの鉄則は、
①はっきりとした目的をもった主人公がいて、
②その目的を邪魔しようとする障害(人・できごと)が次々に出てきて、
③主人公がいかに障害を乗り越えようともがくか
を描くこと!
映画『Crazy Rich Asians』でも、主人公のNickとRachelには、ずっと2人で一緒にいたい(=ゆくゆくは結婚したい)というはっきりした目的があります。
一般人同士のカップルだったら話は簡単ですが、Nickは大富豪のおぼっちゃまで、シンガポールNo.1の財閥の後継者。
Nickの立場ゆえに、一般人のRachelと結婚するとなったら周囲の反発が大変。
さまざまな困難が降り注ぐ中で、もがいたり挫けたりしながらも、立ち向かっていく主人公の姿に励まされるー
そんな映画です。
ヒットの理由② 面白いストーリーに欠かせない『ジレンマ』
ジレンマ:自分の幸せを優先する?家族の幸せを優先する?
家族のために自分の幸せを犠牲にしてきたNickの母。
そのため、自分の幸せと家族の幸せは相容れないものと考えがち。
We know to put family first instead of pursuing one's passion.
You're not our own kind of people.
All Americans think about is their own happiness.
Nickの母は、アメリカと中華圏の違いを、まるで下記のように扱っている気がします。
ただ、自分だけが幸せになるとか、
自分だけが我慢して周りが幸せになればいいとか、
そういうんじゃなくて、
みんなで幸せになればいい。
この映画が伝えてくれる素敵なメッセージですね!
※現実そう甘くないよって思う方もいるかもしれませんし、確かにそうかもしれません。
ただ、自分次第で現実を変えられるかもしれない。
映画の中で、RachelはNickからプロポーズを受けます。
「シンガポールの家族のことは忘れてNYで一緒に2人きりで暮らそう」と。
しかしRachelは「NickとNickの母が自分のせいで仲違いするぐらいなら、自分は身を引く」と決断し、そのことをキッパリとNickの母に告げます。
Rachelは決して自分の幸せだけを考えていたわけではなく、Nick、そしてNickの母のことをこんなにも大切に想ってくれていたことに気づかされるNickの母。
結局、Rachelの勇気ある決断と行動のおかげで、Nickの母は心を入れ替えることになるのです。
Rachelが教えてくれること、それは・・・
"Don't be influenced by the energy in the room. Be the energy in the room."
(その場のエネルギーに影響を受けるのではなく、自分がその場にエネルギーを吹き込め)
※ ↑ 以前友人が教えてくれて以来、気に入ってる言葉です!
ヒットの理由③ 悩める観客の背中を押してくれる『メッセージ性』
Nickの従妹であるAstrid。
冨と美貌を兼ね備えた、誰もが羨むAstrid。
一方で、Astridの夫は起業したばかりでお金も名声もありません。
Astridに引け目を感じる夫と、そんな夫を気遣いながら必死に夫を立てようとするAstrid。
しかし、ある日Astridは、夫が浮気していたことを発見してしまいます。
Astridが夫に浮気のことを問いかけると、
「オレに肩身の狭い思いをさせてきたお前にも非がある!」
と逆ギレ。悲しみに暮れるAstrid。
しかし、ストーリーの最後で、Astridは大切なことに気づきます。
それは...
「自分に自信をもてるかどうかは、結局のところ自分次第」ということ。
夫は、いつも妻の方が世間から注目されているのが気に入らなかっただけ。
自己肯定感を得られなかったのは、Astridのせいではなく、夫自身のせい。
自分が浮気をした原因はAstridにもあると主張した夫に対して、Astridはこう告げます。
It's not my job to make you feel like a man.
I can't make you something you're not.<意訳>
あなたが本物の男として誇らしくいられるようにすることは、私の仕事じゃないわ。私には、ニセの男を本物の男にすることはできないから。
日本語に意訳するとおかしな響きになってしまうかもしれませんが、英語のオリジナルのセリフは本当にかっこいい響き。
「美女と野獣」のように、不釣り合いでも上手くいくカップルもいます。
一方で、地位やルックス、生まれ育った環境が不釣り合いだと、どちらかが引け目を感じてしまうこと、ゆえに2人の関係がギクシャクしてしまうことは、全然ありえること。
では、「美女と野獣」と「Astridと夫」の違いは何なのか?
「美女と野獣」では、紆余曲折ありながらも、野獣はベルに見合う人になろうと努力します。
一方で、『Crazy Rich Asians』に出てくる夫は、Astridに見合う人になろうと努力することを放棄して、他の女性と関係をもつことで、穴の空いた自尊心の埋め合わせをしてしまいます。しかも、自身の不倫を反省するどころか、「俺の自尊心を傷つけるお前が悪いんだ」とでも言わんばかりのわがままぶり。
Astridが夫のことをけなして見下していたのであれば、夫の言い分にも一理あるかもしれません。
でも、Astridは夫のことを常に立てて応援していたはず。
自分に自信をもてるかどうかは、結局のところ自分次第。
日本においては、男性を立てることが美徳とされてきました。
でも、立てる価値のないような人、立てようとしてもひねくれて「どうせ自分なんて...」とふてくされてるような人を立てたところで、それが何の意味になるのか?
Astridは、悩める乙女のロールモデルですね!
※性別の定義が変わりつつあるこれからの時代、女性が男性を立てるとか、レディーファーストとか、男性が家計を支えるとか... 女性/男性だからどうあるべきっていう概念が崩されていくんでしょうね!
純粋にパートナーとしてお互いを支えあう、そんな風潮が強まっていく気がします。
一方が弱っているときはもう一方が支える。
もう一方が弱っているときは、一方が支える。
きっちり50/50にしなくていい。時には20/80、時には60/40でもいい。
そんなシーソーみたいな関係でいられたら、なんだか素敵ですね!
【余談】映画『Crazy Rich Asians』から学ぶ、大道具の活用方法
<大道具① 階段>
見た目は中華系でも中身はアメリカ人。そんなRachelのことをよく思わないNickの母。
Rachelと2人きりになったときに、Nickの母が"You will never be enough"とRachelに嫌味を放つのですが、このシーンで注目したいのはズバリ、階段を使った演出方法。
このシーンではNickの家の階段が舞台なのですが、Nickの母が"You will never be enough"と放った瞬間、Rachelは思わず1歩後ずさりして階段一段分下がります。
Nickの母が上、Rachelが下にくるように2人を立たせることで、階段を使ってパワーバランスを示しているのが秀逸です。
【余談】映画『Crazy Rich Asians』から学ぶ、小道具の活用方法
【小道具① 麻雀】
RachelとNickの結婚に猛反対する、Nickの母。
Nickの母の言い分は...
自分の幸せを追求することが美徳とされているアメリカで生まれ育ったRachelには、「自分を犠牲にしてまで家族のために尽くす」という概念が理解できないから。
家族のために自分を犠牲にしてきたNickの母は、Nickの嫁となる相手にも、自分と同じく「家族のために自分を犠牲にすること」を求めていたのです。
一方、Nickは「キミと一緒になるためなら、家族を捨ててもいい。僕と結婚してくれないか?」と、腹をくくってRachelにプロポーズ。
悩んだあげく、Rachelが出した答えは...?
とにもかくにも、Rachelは、答えを告げるべく、Nickの母を呼び出して麻雀対決を申し込みます。
そしてNickの母に麻雀で勝った後に、Rachelが自分の思いの丈を打ち明けるシーンがあるのですが...
麻雀というスパイス(小道具)が、このシーンを一層盛り上がらせてくれています。
「こういう小道具の使い方もあるのか~!」と勉強させてもらえたシーンです。
【小道具② 婚約指輪】
※以下、ネタバレ注意です!※
映画の最後で、Rachelはアメリカ行きの飛行機に搭乗します。
なぜなら、RachelはNickからのプロポーズを断ったから。
結婚に猛反発してくるNickの母に負けたからというより、NickからNickの母を奪いたくないという理由で(Rachelの心境の変化の詳細については、映画をチェック!)。
しかし!
このままRachelがアメリカに帰ってしまっては、(次期)姑に負けて結婚を諦めた女性の惨めな恋愛映画になってしまいます。
そこで!
観客の期待に応えるべく、飛行機にいきなり乗り込んでくるNick。
「Rachel!Rachel!」
と叫びながら、人をかき分けてRachelの元へ駆けつけるNick。
Rachelの前で膝まづき、パカッと開けた小さな箱の中に入っていたのは...
エメラルドの婚約指輪!
※映画の中盤で伏線が張られているのですが...
エメラルドの婚約指輪は、Nickのお母さんのもの。
つまり、エメラルドの婚約指輪をNickが持っているということは、Nickのお母さんに2人の結婚を認めてもらえたということ!
脚本では、「セリフで言わせるのではなく、観客に(セリフ以外で)わからせることが大事」とよく言われます。
Nickのお母さんに「結婚を許すわ」と言わせるのではなく、Nickのお母さんの代弁役としてエメラルドの婚約指輪を小道具として使うのは、まさに秀逸です!
<最後に:結局、親からの「承認」は必要なのか?>
この映画では「親の反対によって引き裂かれる2人の葛藤」が描かれますが、これってまさに主人公がアジア人だったからこそ成り立つストーリーなんだろうなあと。
欧米が設定だったら、「もう立派な大人なんだから、結婚相手ぐらい自分で決めて当然。親に反対されたからといって何?」と思う人が多くて、親の反対によって引き裂かれる2人というコンセプトが受け入れられなかったかもしれません。
親が子どもに介入しがちなアジアの文化だからこそ、このコンセプトは成り立ったのでしょう。
それにしても、結婚に際して、親からの「承認」は必要なのでしょうか?
結婚に限らず、親からの「承認」は必ずしも必要ではないと考えています。
もう自立した大人なんだから、親からの「お墨付き」がなくても、自分で良し悪し判断できる力ぐらいあるだろうから。
親がいない子にとっては、親からの「承認」というものに頼ることはできないわけだし。
でも、「親」もしくは「親のような存在」から、自分の選んだ道を受け入れてもらえたら、やっぱり子どもとしては嬉しいですよね。
そう思うと、親からの「承認」は必要ではないかもしれないけど、親からの「応援」は、あったら嬉しいものなんだろうなあと思います。
応援されないより、応援された方が嬉しいですし!
ただ、何事においても、人から応援されなかったとしても、応援されない理由を受け止めた上で、「自分の意志を貫く勇気」みたいなのは、人生においてきっと大事な要素なんだろうなあと...
映画『Crazy Rich Asians』は、「地位と文化が違う2人」という意味で、現代版『美女と野獣』のような映画なので、よかったら観てみてくださいっ!
ではではっ!
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