前回は、シナリオは映像化されるということ、シナリオを書く上で映像にできないものがあるということをお伝えしました。第2回では、映像だからこそできるものについてお伝えします。前回は小説とシナリオを比較しましたが、今回は小説・舞台と比べた上で、シナリオ(映像)だからこそできることに焦点をあてていきます。
I. 映像だからできること
1. 時間と空間を飛躍させられる
シナリオはシーンとシーンのつなぎ合わせから構成されるため、シナリオでは時間と空間を飛躍させることができます。
舞台では次のシーンに移るまでに役者が衣装を着替えたり裏方さんが小道具を入れ替えたりと、シーンの入れ替えに時間がかかります。
装飾で異なる場所を演出することはできても、あくまでもストーリーが展開されるのは舞台上です。
しかし、シナリオでは自由に時間と空間を飛躍させてダイナミックなシーン展開を繰り出すことができます。
時間と空間を飛躍させる技術の代表例としては、カットバックと回想が挙げられます。
時間と空間を飛躍させる技術1:カットバック
カットバックとは、シーンの切替のこと。
下記のようにシーンAとシーンBを交互に映すことで、観客をハラハラドキドキさせる効果を生み出します。
>シーンA→シーンB→シーンA。
たとえば、下記のように2つの対照的なシーンを交互に映すことで、ストーリーのサスペンス性もしくは悲劇性が高まります。太郎と花子の仲睦まじい姿と、2人の将来に待ち受けている残酷な運命のギャップに、観客は感情を揺さぶられるのです。
シーンA:ラブラブな太郎と花子
シーンB:花子の両親に、花子の余命は3ヶ月と医師が宣告する
シーンA:ラブラブな太郎と花子(続)
時間と空間を飛躍させる技術2:回想
回想とは、過去のできごとを語ること。
ただ、回想は安易に使いすぎないよう注意が必要。
登場人物の心情などは、あえて説明しないことで、観客は「きっとこうなんだろうなあ」と思いを巡らせることができ、登場人物に感情移入しやすくなるからです。
たとえば、不良少年の主人公がいるとします。
学校では問題を起こしてばかり。
主人公がなぜ不良になってしまったのかを早い段階で回想で説明してしまっては、面白くないですよね。
回想で説明するのではなく、「あいつは昔はいい奴だったんだ。あんなことさえ起こらなければ」のような意味深のセリフを誰かに言わせておいて、主人公が不良になってしまったワケに思いを巡らせる方が、ストーリーに深みが出るのです。
2. 説明せずに暗に伝える『モンタージュ』
2つ以上の映像を組み合わせて第3の意味を伝えることを「モンタージュ」といいます。
映像をうまく組み合わせることによって、言葉で説明しなくても、何が起きているか、または起ころうとしているかを、観客自身に推察してもらう技術です。
表参道にあるシナリオ・センターの先生に解説してもらった例を挙げると...
吉高由里子さん主演のTBSドラマ「わたし、定時で帰ります。」では、温泉まんじゅうを巡ってモンタージュが巧みに使われています。
シーンA:
結衣(吉高由里子さん)の両親が喧嘩し、お母さんが怒って家出する。
家出中に温泉旅行へ出かけたお母さんは、温泉まんじゅうをお土産にもって帰宅する。
温泉まんじゅうは食べきれないほど量があったため、会社の同僚におすそわけするため結衣はオフィスに温泉まんじゅうを持っていく。
シーンB:
結衣のブラック上司である福永(ユースケ・サンタマリアさん)が大変な案件を取ろうと企てている。その案件が決まれば、結衣と同僚は残業の日々を送って苦しむことになるのは確実。
シーンA:
オフィスでは結衣と同僚が、最後の温泉まんじゅうを誰が食べるかじゃんけんしている。温泉まんじゅうには「地獄」との文字が書いてある。
3. 視覚を武器にできる
人は文字から想像を膨らませることもできますが、やっぱり映像で見たものって記憶に残りますよね。
とある描写が印象的な例は、ドラマ「白夜行」に出てくる白いワンピースの少女。
泥沼の中に1人佇む少女がTシャツにジーパンだったら、主人公の男の子が少女に一目惚れしてしまうこのシーンをそこまで印象的には描けなかったことでしょう。
清楚で可憐な白いワンピースを少女に着せることで、観客までもが少女に一目惚れしてしまうような気持ちになり、このシーンへの印象がグッと高まります。
4. 枠がある・カメラワークを駆使できる
カメラで特定の部分をズームインして観客の注意を引くことができるのも、映像ならではの魅力。
たとえば、映画「ローマの休日」の舞踏会シーンでは、ロングドレスを着た主人公がゲストに挨拶をするのですが、ふとヒールが脱げてしまい、必死にスカートの中でヒールを探すシーン。
文字で表現しようとすると全然コミカル感が出ませんが、だからこそ映像でこのシーンを表すと、とってもキュートでコミカルになる。
映像って面白いですね!
5. ドキュメント性(リアリティ)がある
言うまでもなく、映像だからこそ、ですよね!
6. CGなどで特撮できる(アンリアリティ)
たとえば映画「デスノート」に出てくるCGキャラクターのデュークなんかは、映像だからこそ成せる業ですよね!
7. 白黒の世界を表現できる
これも、小説じゃなかなか表せないもの。
映像だからこそモノクロの世界を描いたり、モノクロの世界とカラーの世界を行ったり来たりできる。これって面白いですよね!
8. ナレーションとタイトルを加えられる
ナレーションやタイトル(テロップ)を入れられるのも、映像ならでは。
小説や舞台でもナレーションとかはできる気もしますが、確かにテロップを入れられるのは映像ならではですよね。
II. 映像描写の実際
さてさて、映像の特徴についてわかったところで、今度は実際に映像を描写するとなったときに用いるさまざまな手法についてご紹介します!
①タイトル法
よく映画を観ていると、「3年後」というように文字が出てきますよね?
これがタイトル法です。
時間と空間を飛躍させるときに使う方法です。
②セリフ法
登場人物の心情をセリフを使って表す方法です。
そのままですね!笑
ただ、脚本では、「セリフは嘘つき」という言い伝え(!?)があります。
なんでもかんでもストレートに言ってしまうのではつまらないから、本音と建前を分ける、つまり本当の気持ちとは真逆のことを口で言わせる技術。
たとえば口では「ううん、なんでもない!」と気丈にふるまっていた主人公が、次のシーンでは1人陰で泣いていたとしたら?グッときませんか?
ということで、脚本では必ずしもなんでもかんでもストレートに言ってしまうのではなく、あえてセリフは嘘つきにした方が、主人公により引き込まれるようです。
※ミステリアスな人はモテるという原理と同じかもしれないですね...笑
③ナレーション法
登場人物がナレーションする手法です!(←そのまま)
④意識描写法
登場人物の考えていることを描くことで、次のシーンで起こるできごとに対して、より登場人物に感情移入できるようにする手法です。
たとえば、今日が花子の誕生日だとします。
仕事の帰り道で、家に帰ったら夫が誕生日ケーキを用意して待っていてくれたらいいなあと想像する花子。
花子の妄想シーンが描かれます。
そしてまた仕事帰りのシーンに戻り、花子が自宅に帰っても家は真っ暗で誰もいなかったとしたら...?
悲劇ですよね...
このように、ただ花子が仕事を終えて家に帰る様子を淡々と描くのではなく、「もしも家に帰って夫が誕生日パーティーの用意をして待っていてくれたら...」という花子の淡い期待を描くことで、より花子に感情移入できるようになります。
⑤パントマイム法
登場人物の情緒を、言葉を使わずにしぐさだけで表現する方法。
例)「ローマの休日」
映画では、1日だけ自由を与えられたプリンセスが「何をやりたい?」と聞かれて第一声に答えたのは、「カフェ!」でした。
プリンセスがやりたいと答えたことは、カフェ⇒バイク⇒馬車。
そしてこのカフェ⇒バイク⇒馬車は、まさに冒頭シーンでプリンセスが車から見た「一般の人々がやっていること」そのものだったのです。
プリンセスが「車の中で一般の人がバイクに乗っているのを見たから、私もやってみたいの!」とセリフで直接解説するのではなく、プリンセスが実際にバイクに自らすすんで乗るシーンを描くことで、一般の人々の暮らしに憧れているプリンセスの心模様を描いています。
例)白夜行
長くなるので割愛しますが、主人公の少女が激怒しているときの描写に、パントマイム法が使われています。
少女が直接「ふざけんなよ!」みたいな暴言を吐くのではなく、何も言わない代わりに、いつもはおとなしく静かに食べている朝食の卵ご飯を、荒々しく食べるというシーン。
お茶碗にお箸を突き立てて卵ご飯をぐちゃぐちゃにかき回すシーン。
セリフで伝えるよりも、より少女の痛みと怒りが伝わってくる描写です。
⑥リトマス法
登場人物の性格や心情を、相手のリアクションを使って表現する方法。
たとえば、ドラマ「わたし定時で帰ります」の第1話冒頭シーンでは、スーツ姿のサラリーマンが揃って同じ方向に歩く中で、主人公は大衆のサラリーマンとは真逆の方向に歩く。
他の人とは違うことを主人公にさせることで、観客に「あ、この主人公、他の人とは違うな」と思わせることができるそう。
そう、まさに主人公の結衣こと吉高由里子さんが、他のサラリーマンとは真逆の方向に歩いている姿を表すことで、主人公が「絶対に定時に帰る」というポリシーを貫いていることを際立たせているのです。
もう1つ感動したリトマス法の例としては...
とある映画での夫の行動。
シチュエーションとしては、妻が舞台に立って歌っているシーン。
映画の観客としては、観客自身がプロでもない限り、またはよっぽど主人公が音痴でない限り、主人公の歌やダンスが下手かどうかなんてわかりませんよね。
そんなときに役立つのがリトマス法。
つまり、主人公が歌い終わった後の相手(聴衆)の反応が「ブーブー」とブーイングの嵐だったら、「ああ、主人公は歌が下手なんだな」と明確にわかりますよね。
ただ、ここでさらなる最強のリトマス法が登場します。
それは...
聴衆全員がブーブー言っている中で、1人だけ見惚れて聞き入っている男性が。
そう、主人公の夫です。
このように「聴衆 vs 夫」のような描き方をすることで、夫がどれだけ妻のことを好きかを一瞬で伝えることができる。
ちなみにこのリトマス法は、わたしが大好きなリトマス法です!笑
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さてさて、いかがでしたか?
脚本を書くにあたっては色々な制約もありますが、脚本だからこそできることもたくさん。
第1回・第2回では、脚本とは何か、そして脚本の特徴について解説しました。
次回は、実際に脚本を書く上で欠かせない「ドラマとは何か」についてご紹介します。