小説とシナリオはまったくの別物ということをご存知でしょうか。
この回では、小説とシナリオの違いを知り、シナリオならではの特徴を学びます。
I. 小説とシナリオの違い
小説とは
小説家が1人で作るもの。完成した作品はそのまま読み手に届けられます。
小説の特徴は、ずばり下記の通り。
- 完成品
- 解釈は読み手の自由
- 文体・口調は作者の自由
小説の構成要素
- 地の文(セリフ以外の文)
- セリフ(登場人物の言葉)
シナリオとは
脚本家が作ったものをもとに、全員で映像化して観客に届けるもの。
シナリオの特徴は、ずばり下記の通り。
- 未完成品
- 解釈は満場一致でなければならない
- 誰にでもわかる言葉で書く
シナリオの構成要素
- 柱(カメラを置く場所・シーンを表す文)
- ト書(映像描写の文)
- セリフ(登場人物の言葉)
似ているようで、実は対照的な小説とシナリオ。
小説では書きたいことを自由に書ける一方で、シナリオでは書いたものが映像化される必要があります。
だからシナリオでは目に見えないものを見えるようにする工夫が必要。
でも、そもそも映像にならないものとは何でしょう?
II. 映像にならないものとは?
脚本で描写したことは、すべて映像化されます。
これは何を意味するかというと、目に見えるものしか書けないということ。
「じゃあ目に見えないものはどうするの?どうやって見える化すればいいの?」
こんな疑問に応えるため、まずは「目に見えないもの」とは何か、そしてそれらの目に見えないものをどうやって脚本で描けばいいのか、について解説します。
1. 時間(経過)
シナリオで映像化できない1つ目の項目は、時間(経過)。
たとえば、ストーリーを書く中で、ある一定の時間が経過したことを表現したいとき、小説では「気がつくと12:00を過ぎていた」と表現できます。
でも、シナリオでは上記の表現はNGです。
なぜなら、「気がつくと12:00を過ぎていた」は映像化できないから。
じゃあシナリオではどうやって時間経過を表現すればいいの?
と疑問に思われた方へ。
シナリオでは、下記のように表現することで、時間経過を映像で表せます。
- 【ト書】時計を映す。
- 【ト書】オフィスから一斉に出てくるOL。
2. 心理描写
シナリオで映像化できない2つ目の項目は、心理描写。
たとえば、ストーリーを書く中で、花子が太郎に想いを寄せていることを表現したいとき、小説では「花子は太郎にほのかな恋心を抱き始めていた」と表現できます。
でも、シナリオでは上記の表現はNGです。
なぜなら、「花子は太郎にほのかな恋心を抱き始めていた」は映像化できないから。
じゃあシナリオではどうやって心理描写を表現すればいいの?
と疑問に思われた方へ。
シナリオでは、下記のように表現することで、心理描写を映像で表せます。
- 【ト書】太郎と目が合い、恥ずかしそうに目を逸らす花子。
- 【ト書】花子、校庭でサッカーをしている太郎を教室の窓から目で追う。
3. 形容詞(句)
シナリオで映像化できない3つ目の項目は、形容詞(句)。
たとえば、ストーリーを書く中で、きれいな花を表現したいとき、小説では「きれいな花」と表現できます。
でも、シナリオでは上記の表現はNGです。
なぜなら、「きれいな花」は映像化できないから。
※花を映すことはできても、その花をきれいと思うかどうかは個人の解釈次第。
シナリオを映像化する上で、「きれいな花」と書かれていたら、小道具さんは困ってしまいます。したがって、全員が同じ解釈をしなければならないシナリオでは、「きれいな花」はNG表現です。
じゃあシナリオではどうやって時間経過を表現すればいいの?
と疑問に思われた方へ。
シナリオでは、下記のように表現することで、形容詞(句)を映像で表せます。
- 【ト書】白くて小さな1つのユリの花。
4. 人間関係
シナリオで映像化できない4つ目の項目は、人間関係。
たとえば、ストーリーを書く中で、カップルを登場させたいとき、小説では「カップルが電車に乗ってきた」と表現できます。
でも、シナリオでは上記の表現はNGです。
なぜなら、「カップル」は映像化できないから。
※カップルを映すことはできても、その2人を映すだけでは、2人がカップルかどうか視聴者にはわからない。
したがって、2人がカップルであることを映像で伝えるための工夫が必要です。
じゃあシナリオではどうやって時間経過を表現すればいいの?
と疑問に思われた方へ。
シナリオでは、下記のように表現することで、人間関係を映像で表せます。
- 【ト書】手をつないではにかみ見つめ合う男女が電車に乗ってくる。
※カップルではなくて「友達」や「夫/妻」といった人間関係を映像で表したいときも、友達同士、または夫婦同士とわかるような表現(表情やしぐさ、セリフ)が必要です。
5. 目的・状況
シナリオで映像化できない5つ目の項目は、目的・状況。
たとえば、ストーリーを書く中で、ニートの太郎がここ数か月間ずっと採用面接に落ちている状況を表現したいとき、小説では「太郎はずっと採用面接に落ちてきた」と表現できます。また、太郎がタバコを買いに家を出たという目的(意図)を表現したいとき、小説では「太郎はタバコを買いに家を出た」と表現できます。
でも、シナリオでは上記の表現はNGです。
なぜなら、「太郎はずっと採用面接に落ちてきた」は映像化できないから。
※太郎が採用面接を受けて不合格通知をもらうシーンを映すことはできますが、尺が限られた映画において「太郎がずっと面接に落ち続けてきた」ことを1つのシーンで伝えるためには工夫が必要です。
「太郎はタバコを買いに家を出た」も映像化できません。
なぜなら、太郎が家を出るシーンを見ただけでは、家を出た目的がタバコを買うためということは観客には伝わらないから。
じゃあシナリオではどうやって時間経過を表現すればいいの?
と疑問に思われた方へ。
シナリオでは、下記のように表現することで、状況を映像で表せます。
- 【ト書】部屋にちらかる不採用通知。
- 【ト書】太郎は空のたばこの箱を握りつぶして投げつけ家を出る。
III. シナリオに求められるもの
小説とシナリオの違いについてお分かりいただけたでしょうか。
シナリオでは、万人の頭に共通のイメージを描く力が求められます。
その上で各シーンをどのように描けば観客に響くかを考え抜く想像力が求められます。
どのように登場人物の心情を表現するのか。何をセリフにして何をト書にするのか。
1つのシーンだけでも無数の表現方法があります。
1つのシーンを噛み砕いて細部の表現にこだわり抜けば抜くほど、深みが滲みでる。
「神は細部に宿る。」
人の心に響くシナリオを書くコツは、まさに細部にこだわり抜くこと。
具体的な原稿用紙の書き方については、『シナリオの基礎技術』(新井一・ダヴィッド社)を参照してみてください。
第2回では、シナリオを書き始めるにあたって知っておきたい映像の特性と映像描写についてお伝えします。
少しでも「シナリオって面白そう!」と思った方は、ぜひ読み進めてみてください。